海外研修員視察(JICA帯広)

-明渠排水工事における生態系保全取り組みの実例-

平成14年度に当社が施工した帯広市大正地区の農業用明渠排水は、JICA(国際協力事業団)が海外からの研修員に対して実施する「畑地帯における農業基盤整備コース」視察の対象として活用(平成20年度は6月13日)されています。この視察は、十勝支庁が平成16年度よりJICAからの要請により受け入れている研修の一環として行われているものあり、本地区における視察のテーマは“明渠排水工事における生態系保全取り組みの”実例”です。
この明渠排水は、地域の特産品である長芋、ゴボウ等根菜類の生産に重要である地下水位をより一層低下させることを目的として改修したものですが、十勝支庁では次の理由により生態系復元の可能性が高いと判断し、多自然型工法を取り入れ整備しました。

1. 本川である途別川にはサケ、ヤマメ、ニジマス、ハナカ ジカ等の魚類が生息しており、その支川である当排水路においてもかつては同様の魚類が生息していたことが推測される。しかし、過去の改修により途別川との合流部に魚類の遡上を阻害する落差工が設置されたことから、排水路への遡上が難しくなっていたが、これを改修することにより魚類の遡上及び生態系の復元が見込まれること。
2. 本排水路は上流部の湧水を水源としていることから、水質が良質で流量も一年を通じて安定しており、魚類等水生生物の生息に適していること。
3. 地域にあって常に本排水路を見守っている農業者の皆さん方の生態系復元に対する強い熱意があったこと。

多自然型として採用された工法は、水生生物の生息に配慮した水制工(フトンカゴ)、魚窪工、魚道式落差工、河床砂利敷設などですが、そのほか、当社の提案で未使用排水路敷地を活用した“ワンド(止水域)”を造成しました。また、魚類が生息するために重要である河畔の植樹を農業者の皆さんに提案したところ、樹種選定や植樹等に積極的な協力を得て実施することができました。
当社では施工した翌年から自主的に毎年2回のペースで水生生物の生息数調査を継続して実施していますが、それによるとハナカジカ、ニジマス、ヤマメ、フクドジョウなどの魚類、バイカモなどの水生植物、その他多くの底生動物の生息が確認でき、年ごとに変動はあるものの、個体数の増加及び体形の大型化が明確となっています。このような生態系の着実な復元には、多自然型工法も大きな役割を果たしているものと確信しています。
本年度に現地視察されたJICA研修員は8名であり、まず十勝支庁の担当者から地区の概況と設計について、また、当社の担当者から施工について説明を受けた後、ほとんどの皆さんが胴付を身につけ水路に入りました。排水路の中でタモを持って約30分間格闘していましたが、ハナカジカやニジマスを捕獲するたびに喚声を上げていました。いつもの机上での研修とは一味違った心に響くものを感じていたに違いありません。この実体験と、魚類等自然生態系の復元状況のすばらしさが好評となり、毎年支庁から視察の対象に指名されているのではないかと思っています。
なお、世界各国から十勝地域に来られたJICA研修員の皆さんは、数ヶ月間の研修を修了した後帰国し、それぞれの国において農業農村整備等に関する調査・計画・施工管理等の分野で指導的な立場に就かれると聞いております。当社の施工した施設が評価され、少しでも国際親善に寄与できれば幸いであると考えています。